吉行淳之介と川端康成

 吉行のエッセイによると、パーティーに出席していた折り、何かで昂奮した女性から顔に酒をかけられた。吉行はあわてず女性が身につけていた高価そうなスカーフを奪い取りそれで濡れた顔を拭いた。とたんに女性は昂奮から覚めたという。そのことを吉行は、女性は損得の状況に追い込まれると昂奮から覚めるというようなことを言っていた。
 銀座のクラブで同じ様なことを経験した川端康成は、自分のハンカチで濡れた顔をぬぐい、相手の女性を無視してそのまま何事もなかったかのように隣の人と話を続けたという。
 酒席でホステスから酒やら水やらをかけられた経験はない。そうなったらどのように対応するだろうか。襟元を掴んでという選択肢もないわけではないだろうが、水をかけるという状況は彼女がそうする理由があるわけだから、こちらが素直に反省しなければいけないのかもしれない。
 吉行は「砂の上の植物群」で女性を縛っていてちょっと変態と思われている節もあるが、せいぜいサドっぽい傾向がある程度ではないだろうか。むしろ変態という部類に分類されるのは川端に違いない。「眠れる美女」とか「片腕」とか。いや、作家が変態でも何の問題もないけれど。