ギャラリー現で井上修作展が開かれていた(11月12日まで)。画廊の床一面に白いロープが渦を描いて置かれている。ロープには数字が書かれている。画廊の片隅には丸く巻かれたロープが置いてある。横の壁には無数の数字が書かれた紙が貼られている。これらは何なのか?
井上修策さんが説明してくれた。ロープの数字はスタンプが押されたものだ。数字は「π」円周率で、18万3千〜4千桁まで記してある。壁に貼った数字も同じもので、毎日500桁をスタンプしていった。ロープは約500mあり、細いロープが3本縒り合わさってできている。だから数字が記された長さは1,500mになる。
昨年20年来の友人が入院した。以前脳腫瘍で手術していったんは回復していたのに、再発してしまったという。今年の1月1日に病院に友人を訪ね、ロープの端に赤いインクで3.14の数字をスタンプしてもらい、以後毎日井上さんが500桁の数字をスタンプし続ける。合間に病状の良いとき友人に10桁の赤いスタンプを押してもらった。しかし赤いスタンプは2月20日が最後になって友人は亡くなった。その後も井上さんは毎日500桁の数字をスタンプし続けている。このロープがその結果なのだ。井上さんは「πという天文学的無限の数字を使って、宇宙に見立てたロープの渦のなかに彼を存在させてやろうと考えた」と書いている。
この展示=インスタレーションはその意図を十全に表現し得ている。見事な作品だ。井上修策は毎回新しい試みをしている。けっこう派手なのにけれんみがなく、表現に強い必然性がある。そして美術作品として美しい。
最近見た最も優れた美術作品の一つであると断言できる。
井上修策展
2009年12月7日(月)〜12日(土)
ギャラリー現
東京都中央区銀座1-10-19 銀座一ビル3F
http://www.jpartmuseum.com/g_gen/
3年前もこのブログで井上修策展について紹介したことがあった。
・「クリスマスの井上修策」(2006年12月25日)