晩秋のハイキング

 晩秋のある日、友人の旧居跡を訪ねた。それは長野県南部の飯田市の西に位置する風越山(ふうえつざん、かざこしやま)の中麓にある。風越山は姿のきれいな山だ。地元では権現山とも呼ばれている。山頂に白山権現が祭られているからだ。

 飯田駅の南側から丸山町を通って登っていく。緩やかな上り坂だ。途中、市民球場や赤報隊通過の記念碑がある。振り返れば天竜川東岸の下久堅の河岸段丘も見える。

 風越山登山道入口と書かれた左の道を選ばずに右の道を行くと、風越山麓公園へようこそと書かれた看板がある。このY字路も右へ行く。

 橋を渡った向こうに白い壁の建物が見える。この建物の右手手前の30坪足らずの土地に建てられた山小屋のような小さな一軒家に友人が住んでいた。今は更地になっている。周囲は松の疎林だ。石段を下りてその住居址へ行く。





 一角に黄菊が咲いていた。友人が植えた菊に違いない。酒と麻雀と囲碁とパチンコが好きなくせに花も好きで、きれいな野草を採ってきて植えていたという。山仕事が多かったから。

 見上げれば松が頭上に拡がっている。友人もこの松を見上げていたのか。

 東を見ると遥かに遠く友人と私が生まれ育った喬木村が見える。残念ながら手前の天竜川は見えないが。

 持っていった焼酎の口を切り、そこらに注ぐ。私も一口飲む。残りを全部注ぐ。
 6年近く前、初めて訪れた友人の一軒家は黒焦げになっていて、わずかに壁のみが残っていた。亡くなる3時間ほど前に電話で話したのが最後だった。
「友人の1周忌に詠める」(2006年6月5日)から、

友人の住居址に立って
谷に向く君の姿に重ねれば朝ごとに見し君の視界が