岡田茉莉子の自伝「女優 岡田茉莉子」(文藝春秋)が出版されたのを記念して、ポレポレ東中野で岡田茉莉子特集が組まれている。先日そこで小津安二郎の「秋日和」を見た。劇場で小津を見たのは初めてだった。45年ほど前に何作かテレビで見ていた記憶がある。低い位置から狙うアングルやカットつなぎの多用、繰り返しの多い会話などを憶えている。
「秋日和」は昭和35年の作品、もう49年前になる。原節子が主演している。原をスクリーンで見たのも初めてだった。原節子40歳、岡田茉莉子はまだ27歳の美貌、うちの娘より若いのだ。
「秋日和」を撮ったときの小津について岡田茉莉子が書いている。
普通は、本読みといえば、私たち出演者は監督から作品についての説明、イメージといったものを伺い、そのあと、シナリオを出演者たちが声を出して読むものだが、小津さんは違っていた。
小津監督ご自身がまずシナリオを読み、そのとおりに出演者も読むことが求められる。イントネーション、台詞をしゃべる「間」、それも監督と同じように話さなければならない。俳優としての個性は必要ではないのだろうかと、誰もが思うことだろう。だが、小津さんには、出来あがる映画がもう目に見えており、私たち俳優は、そのとおりに演じなければならなかった。
スタジオでの撮影が始まった。それは静寂そのものだった。
咳払いひとつするにも気遣うほどの静けさ。スタッフも足音を忍ばせるようにして歩く。カメラマンの厚田雄春さんがスタッフに与える指示にしても、パントマイムのように行われる。そして聞こえるのは小津さんの声だけ、それも低く、物静かだった。
小津の映画はドラマチックな事件は起こらないし、崇高なドラマも見られない。スペクタクルもない。淡々とした日常が描かれる。では小津の魅力とは何だろう。それは文体の魅力ではないだろうか。短いカットで繋いでいく手法、それは独特な映画の文体だ。小津の映画を見終わって時間が過ぎても、不思議に何度も思い出されるのだ。
それにしても20代後半というのはきれいだなあ。女性の一生で一番美しいのがその頃だと、昔インテリの宇土さんが教えてくれた。まあ、世阿弥は別の意見だったようだが。
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