一人のための向井山朋子ピアノリサイタル

 いささか古い話だが、2004年にnca(日動画廊コンテンポラリーアート)が主催する向井山朋子ピアノリサイタル「For You」を聴いた。とても変わった企画で、観客たった一人のための演奏会だった。ただし一人あたり約10分ほどの演奏。料金が1,500円だった。客は帝国ホテルのラウンジで順番を待つ。ここのコーヒー代1,000円は主宰者が負担する。時間が来るとバイトの青年が画廊(nca)へ案内してくれる。画廊の中央にグランドピアノが置かれている。ピアノの数メートル前に豪華なソファが用意されている。やがてピアニストが現れ、プログラムが渡される。

田中カレン  テクノ・エチューズ
シメオン・テン・ホルト  Duivelsdans no'3

 この2曲が私一人のためのプログラムだった。どちらも初めて聴いた曲だった。2曲目がちょっとミニマルで面白かった。
 気になったのはピアニストの真上にどうやらビデオカメラが設置されていて、それが観客を向いていることだった。そのことが少し緊張させたが、演奏が始まればそんなことはどうでも良くなった。
 しかし、この演奏を一人で独占して聴くという試みは私にとってほとんどメリットがないと思えた。大きなコンサートホールで大勢の聴衆と一緒に音楽を聴くことに何の不都合も感じられなかったからだ。むしろ多くの聴衆と感動を共有する方がずっと好ましいことだった。