名盤「CAT NAP」のCD化を強く希望する

 あんたは本当に暗い歌が好きねえ。カミさんが少し軽蔑したように言った。もう30年以上前のことだ。浅川マキや内藤やす子、大友裕子を指している。一番好きだったのは山口百恵だったが、これについては何も言われなかった。浅川マキは当時の友人三木良吉に勧められた。「ちっちゃな時から」「かもめ」「夜が明けたら」なんかが好きだった。
 その浅川マキのLPレコード、トランペットの近藤等則が作曲している「CAT NAP」は特別だった。1982年に発売された。トランペット:近藤等則、サックス・ピアノ:本多俊之、ベース:川端民生、ギター:松本喜代志・飛田一男、ドラムス:つのだひろというメンバーだ。奇跡のようにすばらしいジャズ・アルバムだ。タイトルを列挙すると、

1. 暗い眼をした女優
2. 忘れたよ
3. こころ隠して
4. むかし
5. 新曲"B"
6. 夕暮れのまんなか
7. マシン
8. 今なら

「浅川マキ ディスコグラフィー」をまとめたファンは、こう言っている。

 マキはこのアルバムで、フリージャズ、時にはパンク、ラテン、レゲの世界へも踏み込んでいく。確かに旧来の作品群からは一線を隔した新しい領域であるが、ただ、このアルバムに関してだけいえば、マキの良さを導くことが出来なかった美しき失敗作と私には響く(――が、マキ自身は相当気に入ったようで、数少ないベスト盤にこのアルバムからの楽曲が収録されることは実に多い)。なにより、歌が聞こえない。そして、なにを表現しようというのか、いまいち捉えることができない。ただ、ひたすらエキセントリックな音の群れが、マキによりそうことなく、疾風のように通り過ぎていく。それを驚きもせずクールにマキは見つめている。そういうアルバムといっていいだろう。

「なにより、歌が聞こえない」その通りだ。そしてこのアルバムに関して浅川マキはいらない。むしろ彼女の歌が邪魔なくらい、演奏だけで十分だ。それは優れたジャズなのだ。それで、近藤等則のCDアルバム「337」を買ってみたのだが、これは気に入らなかった。
「CAT NAP」はLPで発売されたまま、まだCD化されていない。中の4曲だけが2枚組のCDアルバム「DARKNESS I」に収録されている。
「暗い眼をした女優」「忘れたよ」「新曲"B"」「夕暮れのまんなか」

DARKNESS I

DARKNESS I

 とりあえずここで聴くことはできる、とは言うものの、やはり名盤「CAT NAP」そのもののCD化を強く希望するものだ。