朝日歌壇に掲載された短歌

 10月12日付けの朝日新聞に掲載された朝日歌壇で、常連投稿者の金忠亀さんの短歌が二人の選者に選ばれている。その短歌が分からなかった。


弟の二人を送り残る「亀」は三匹ひとつの消息知らず

 第4首に選んだ永井和宏の解説。

(第3首の)敷田さん、弟への眩しいようなエール。逆に金氏の歌では二人の弟を送り、残る「亀」は三人という。中には消息の知れない亀もいるというのが哀れ。

 第3首に選んだ佐々木幸綱の解説。

第三首、「亀」の字がつく五人兄弟それぞれの人生。軽々とうたっているが、うたわれた内容は重い。

 解説されてようやく分かった。亀の字がつく5人兄弟の2人はすでに亡くなり、残る3人のうち1人が行方不明になっているということだった。金忠亀は常連で人生にわたる良い歌を作る。名前から在日の人なのだろう。
 同じページ「朝日俳壇歌壇」に関川夏央のエッセイ「うたをよむ 美しい目 遠いまなざし」が載っていて、前記の選者永井和宏の妻河野裕子の短歌が紹介されている。短歌のみ拾う。

ブラウスの中まで明るき初夏の陽にけぶれるごときわが乳房あり
まがなしくいのち二つとなりし身を泉のごとき夜の湯に浸す
君は今小さき水たまりをまたぎしかわが磨く匙のふと暗みたり
昔とは世に無き時間乳母車押してのぼりし坂は残れど
たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江と言へり
つくづくとさびしい人だね裕子さんれんげの芽を見てゐる後ろ手をして

 関川夏央も書いているが、琵琶湖を「昏き器」と歌ったこの作品には驚いた。短歌ってこんなことまで言えるんだ。