南天子画廊の宇佐美圭司展「破れー開かれ」

 京橋の南天子画廊で宇佐美圭司展が始まっている(10月24日まで)。宇佐美は1940年生まれ、1969年に渡米し、確か「アメリカの熱い夏」と呼ばれた黒人暴動に遭遇し、投石する彼らの姿をスケッチした。以来、今日まで40年間「投石する人」の形を画面に描き続けている。今回の個展に展示されている作品でもそれは変わらない。なぜ宇佐美はこの形にこだわるのだろう。作品のタイトルはいずれも「破れー開かれ」となっている。作品はおもしろかった。




 画廊が作ったカタログには宇佐美の言葉が掲載されている。読んでもよく分からない。

「破れ」は物理学者、南部陽一郎の論文「自発的な対称性の破れ」からもらった。半世紀前、彼が「破れ」で語ろうとした出来事を私は一方的に自分の表現行為に引き寄せて”その通りだ”と思ったからである。「開かれ」は同時代のイタリアの哲学者アガンベンの「開かれ・人間と動物」から引用した。アガンベンの開かれは、解除・放心へとつながり、必ずしも自由や解放へといざなう運動ではない。二つの言葉は意味の境界をさまようから、絵画はそこから描くことの実践の場に出なければならない。「大洪水」はこの数年来の私のテーマである。「破れー開かれ」が大洪水へ向かう制動の表現であらんことを。

 宇佐美の個展は南天子画廊では3年ぶりだ。初日のオープニングパーティーには何人もの有名人の顔が見られたが、人が多すぎて作品は見られなかった。改めて出直した日は客は誰もいなかった。ゆっくり作品を見ることができた。


■追加と訂正
 上記で私は「1969年に渡米し、確か「アメリカの熱い夏」と呼ばれた黒人暴動に遭遇し、投石する彼らの姿をスケッチした。」と書いたが、正確には次の通りだった。

 1966年私はすでに純粋な抽象表現を離れ、ワッツ暴動の報道写真から取りだした人型を素材にして作品を作りはじめていた。(宇佐美圭司「20世紀美術」岩波新書より)


宇佐美圭司展「破れー開かれ」
9月28日(月)ー10月24日(土)(日曜祝日休廊)
10:30ー18:30
東京都中央区京橋3-6-5
電話03-3563-3511
http://www.nantenshi.com/