日本はインドネシアから木材を輸入している

 山口昌男の10年ほど前の札幌大学での講義録「学問の春」(平凡社新書)を読んでいるがこれが面白い。タイトルが抽象的だが、実際は「文化学総論」(ホイジンガホモ・ルーデンス』を読む)の講義録をもとにした「比較文化学講義」である、と冒頭にある。
 読み始めてすぐ、気になるところがあった。講義の趣旨に関係ないのだが。山口はインドネシアのブル島へ調査に行く。ところがインドネシアに行くと、ブル島には共産党員の収容所があるから外国人は入れないだろうと言われる。

 1965年以来の共産党撲滅を目的とした軍事行動によって、インドネシア独立運動の闘士だったスカルノ大統領は辞めさせられて病気になって死んでしまった。1968年にスハルト政権という軍事政権が成立したけれど、インドネシア全域はその後、軍人の利権の対象になってしまった。退役軍人を含めて、大将、中将、そういう人たちがこの島の漁業権や森林伐採権を自分たちで握るようになった。
 そして、日本の商社がその軍人たちと手を結んで利益を追求している、ということもあるわけです。たとえばブル島でも、僕が行っていた頃もそうでしたけれど、日本の商社が韓国籍の船、韓国の船員や船長を雇って、山林の木をどんどん切り倒して運び出すものだから、島の山はハゲ山となっていた。

 以前取引先の木材輸入会社の部長が、昔はインドネシアへ木材の仕入れに行っていたと話してくれた。そのことを思い出した。密林の奥地へ入っていって、週末にだけ街へ戻る。街では皆で女の子のいるクラブへ繰り出すんだよ。そこでは30分ごとに10分間だけ明かりが消えて真っ暗になるんだ。その間女の子に何をしてもいいんだ。でも僕はライターに火を着けてインドネシア人のホステスからインドネシア語を教わっていたんだ。ほら、と言って部長は片言のインドネシア語を喋ってみせた。
 インドネシアへ木材の仕入に行って、なぜ毎週末怪しいクラブへ出入りするのか不思議に思っていたが、軍人との利権絡みだったのだと思い至ったのだった。そのクラブには軍人と商社と木材輸入会社の男たちが、少しは感じる後ろめたさを忘れるために通っていたのかもしれない。単なるスケベかもしれないが。部長は清潔でえらい!

新書479学問の春 (平凡社新書)

新書479学問の春 (平凡社新書)