愛の行方

 愛し合う二人が脱出を試みる。先にリーマスが壁を乗り越え、続くリズの伸ばした手をつかんだ。

 突然、全世界が焔の海に落ちこんだかに見えた。上方から、左右から、あらゆる個所から、強烈な光線が集中して、残酷な正確さで、ふたりの姿を浮かびあがらせた。(中略)
 そのとき、一斉射撃が開始された……1度、2度、3度、4度。かれの手に、彼女の痙攣がつたわって、そのほそい腕が、かれの手からすべり落ちていった。(中略)
 リーマスは、光線を手でさえぎり、壁の下をのぞいて、やっと、その姿をみとめた。うごかずに横たわっている。ちょっとためらったが、かれはゆっくり、ピトンの梯子を降りていった。女のかたわらに立った。女は死んでいた。

 そして、「最後に、銃弾がかれを捉えた。2発か3発」。リーマスも倒れる。梯子を降りていったとき、リーマスは自分の死を知っていただろう。だが、その時かれにとって、自分の死はどうでもいいことだったに違いない。愛するリズが死んだのだから。
 愛は死をも恐れさせないのは事実なのだ。それには何の疑いもないのだけれど、長い歴史のなかではいろいろのことがある。もし二人が無事に生き延びて一緒にくらすことになったとしても、この深い愛が長期間の愛を保証することはないだろう。
 激しい恋をして結ばれた友人夫婦が10年も経たずに離婚してしまったり、プレイボーイだった友人が単なる遊びだった女性を妊娠させたがために仕方なく結婚したのだったが、今では子供も3人いる幸せな家庭を作っている(ように見える)。
 リーマスとリズが幸せでなかったと誰がいえるのだろう。