タバコの害虫は存在するか

 金井美恵子が「目白雑録3」(朝日新聞出版)で、タバコを食べる虫なんているのだろうかと書いている。

私はそもそも煙草の葉っぱというものにはニコチンという毒があるのだから、虫は食べたりしないので農薬系は必要ないのだとなんとなく思い込んでいたのだったが、19世紀当時からそれをやる行為が下品の最たるものと思われていた噛み煙草のように、煙草の葉っぱを噛むのが好きな虫がタデを喰う虫のようにいるのかもしれない……。

 はい、タバコの葉を食べたり汁を吸ったりする虫がいるのです。25年近く昔に発行されたその名も「最新農薬生物検定法」という細辻豊二編集によるきわめて高価な専門書(本体価格56,000円)には、浅田三津男執筆による世界のタバコの害虫として主要19種が取り上げられている。
 その名もタバコガとその近縁のオオタバコガは、日本ではピーマンやトマトの果実に食入して台所でしばしば主婦のヒンシュクをかっている。後者は海外ではCotton Bollwormと呼ばれ、ワタの大害虫だ。そのほか、ハスモンヨトウやシロイチモジヨトウもタバコを食害する鱗翅目の重要害虫。
 それから半翅目のタバココナジラミとモモアカアブラムシ。日本ではネギの害虫として知られるネギアザミウマ(スリップス)も海外ではTobacco thripsと呼ばれるタバコの害虫だ。
 乾燥したタバコの葉を食べるタバコシバンムシというのもいる。葉巻の害虫らしい。このシバンムシという名前は漢字で書くと死番虫。英語のdeathwatchを直訳(誤訳)したものだという。本来は「死時計虫」と訳すべきだったと梅谷献二氏が書いている。
 海外の農業害虫に関しては、本書のほかにイギリスの有名な出版社(名は失念)から発行されているHillの「熱帯の農業害虫」と「温帯の農業害虫」がとても使いやすかった。どちらも翻訳はなく英語版のみだったが。この本は美人で生涯独身の昆虫学者服部伊楚子さんが教えてくれた。服部さんに関しては改めて書きたい。