「向日葵の咲かない夏」への不満

「このミステリがすごい」という賞は不思議な賞で、選ばれた作品が本当に面白かったりものすごくつまらなかったりする。私はミステリの良い読者ではないので偉そうなことは言えないが、「このミス(このミステリがすごい)」の国内版2003年度1位の横山秀夫半落ち」は優れた作品だったが、2004年度1位の歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ」は良くなかった。
 海外編ではもう少し良くて、1998年度1位のウィングフィールド「フロスト日和」、2000年度1位スティーヴン・ハンター「極大射程」、2002年度2位ウィングフィールド「夜のフロスト」はいずれもすばらしかった。
 一方同じ海外編でも2003年度1位ドロンフィールド「飛蝗の農場」、2007年度1位ドラモンド「あなたに不利な証拠として」は評価できなかった。「このミス」の評価には大きなムラがあるようだ。
 さて3月近所の書店の平台に「このミステリがすごい2009年度1位」という帯がついた文庫本が平積みされていた。道尾秀介という聞いたことのない名前の「向日葵の咲かない夏」という作品だ。買っておいて先日ようやく読んでみた。通勤の時間と昼休みの2日間で読み終えた。ひどい作品だった。
 初期に最重要容疑者だった人物がいつの間にか姿を消す。「アクロイド殺人事件」のような禁じ手が多用される。物語が作者の恣意によって引きずり回される。そこには必然性が感じられない。会話が下手だし、そもそも年齢による会話の使い分けもできていない。
 最近はこの作品のような、ただ物語が面白いだけのひどい作品が多いような気がする。読者の質が下がり発行点数増加を要請される出版社の都合がこのことの背景だろうか。「葉桜の季節に君を想うということ」然り、桜庭一樹「私の男」然り。
 ちなみに「向日葵の〜」は軽い文体で、昼休みの40分間で100ページも読み進められたほどだった。

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)