私の娘の母方のおじいちゃんは長く高校の英語の教師をしていた。謹厳実直な人だが優れた教養人でもある。その人が初孫が生まれたとき、孫が喜ぶからとタコ踊りをしたので本当に驚いた。孫ってそんなに可愛いのだ。
「新撰組始末記」を書いた子母沢寛は画家三岸好太郎の異父兄だという。
子母沢さんの祖父梅谷十次郎は徳川の御家人で、瓦解のあと彰義隊に加わり、破れてからは榎本艦隊の北上に参加し、五稜郭で戦った。
そのあと、のがれて厚田村に土着した。最初は土地の網元の用心棒などもしたらしい。いつ彫ったのか、背中一面に竜の彫物があったという。その後、旅籠屋を営んだが、妓なども置いていたし、漁場で喧嘩沙汰があると、調停を買って出た。刺青はそういう場合の役に立つよう彫ったものかと思われる。(中略)
夜になると、子母沢さんを膝の間に入れて、大きな湯呑茶碗で酒を飲みつつ、江戸の話や彰義隊のこと、五稜郭戦争の話をした。それが子母沢さんにとって桃太郎や金太郎の話であり、悪いやつは当然、薩長人だった。(中略)
話しているときに子母沢さんが尿意を覚えて立とうとすると、
「ここでしろ」
と湯呑の中の酒を飲み干し、それへさせた。むろんそのまま庭へ投げすてた。
司馬遼太郎「街道をゆく 15巻 北海道の諸道」(朝日文庫)から。24年ぶりに再読したが、ここは強く印象に残っていた。当時「街道をゆく」の文庫版が出ると楽しみですぐに買って読んでいたのだった。
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2008/11/07
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (2件) を見る