名文家になる方法

おおかた事を記すに、漏らさじとすれば煩わしく、省けばまた要を失う。

 これは松平定信の言葉らしい。ところが画家野見山暁治の文章は、省いて要を失わない名文だ。省略がほれぼれするほど巧い。画家にして名文家はほかに芥川賞を受賞した池田満寿夫、エッセイ集が何冊もあり歌もプロ級だという堀越千秋が思い出される。この3人に共通するのは長い間海外で暮らしていたことだ。
 池田満寿夫については、3月に紹介した。
「エーゲ海に捧ぐ」を読み直す(2009年3月21日)
 野見山に関しては2年ほど前に書いている。
名文の秘密ーー野見山暁治の文章修業(2007年8月17日)
 池田も野見山も海外で日本語が話せる状況になかったから、日本語で独り言を言っていたという。それが彼らの日本語を鍛えたのだろう。おそらく今もスペインで暮らしている堀越千秋も同じだったのに違いない。今はもう亡いギャラリー汲美のオーナー磯良さんも、画家の名文家は1に野見山さん、2に堀越さんと言われていた。
 画家ではないが、加藤周一はドイツで暮らしていた。ドイツが加藤の論理的で明晰な日本語を鍛えたのに疑う余地がない。フランスで暮らしていた辻邦生が仲間とハイデッガーの「存在と時間」の読書会をやったとき、ドイツ語の論理性に驚いたと書いていたことを思い出す。
 この辺りに名文を書くためのヒントがあるのではないか。


画家で名文家の堀越千秋のホームページ
http://www.chiakihorikoshi.com/