酒井啓之写真集「現代アートシーン」

現代アートシーン」(美術出版社)という写真集がある。美術出版社のカメラマンだった酒井啓之が「みずゑ」や「美術手帖」の取材で撮影した画家たちの肖像を集大成したものだ。222人の画家、彫刻家、美術批評家の肖像が掲載されている。700ページ余、厚さ5センチ、重さ1.5キロもある。
 主に60年代、70年代、80年代に撮影されたもので、知らない画家たちも多い。知っている画家もみな若い! 写真からいろいろなことが読みとれる。顔が性格を、そして作品を現していることがしばしばあるのだ。おもしろい。
 赤瀬川原平は46年前も気取りがない。自己主張が強そうな飯田善國。43年前、若い頃の池田満寿夫がハンサムで驚いた。井上長三郎って頑固だったのか? 無口そうな牛島憲之。財界人のような梅原龍三郎。人の良さそうな大沢昌助。いかにも神経質そうな岡鹿之助、この人だっけ、初恋の女性に振られて一生独身で過ごした人は。岡崎乾二郎は私の会社の後輩だった彼の従弟と似ている。岡本太郎は45年前も亡くなる前もあまり変わっていない。小原豊雲はなんだか傲慢で嫌なおっさんみたいだ。病気で変形している小山田二郎の唇の写真を凝視するのは初めてだ。
 片岡球子は近所の小母さんみたい。北村西望っていい人だったんだろう。熊谷守一は本当に仙人だ。いやホームレスと言っても通るかもしれない。40年前の黒川紀章は優等生の顔だ。駒井哲郎ってこんなに胸板が薄かったんだ。
 斎藤義重は農家のおっさんみたい。篠原有司男はきかん気の兄ちゃんだ。菅井汲も何だか食えなさそう。関根伸夫は現在の社長業に通じる実業家の顔だ。ほめているわけではない。北朝鮮へ帰って行方不明になった曹良奎ってこんなにいい顔をしていたんだ。
 高松次郎は作品どおりの顔。瀧口修造は横顔なのでよく分からない。31年前の辰野登恵子って結構かわいいじゃん。立石大河亜って結構まともじゃん。田淵安一は誰か俳優に似ている。鶴岡政男って気難しそう。勅使河原蒼風は腹出過ぎ。メタボじゃん。堂本印象、貫禄! 
 中西夏之、46年前の若い頃はなかなかハンサム。これも46年前の中村宏、この人は真面目なんだ。流政之はいかにも押しが強そうだ。難波田龍起って神経質だったのか。41年前の野見山暁治も裏のなさそうな顔をしている。
 林武ってむさいおっさんだったのか。彦坂尚嘉は31年前も強情そうだ。51年前の土方定一は当然ながら息子の土方明司によく似ている。いかにも秀才らしい。福沢一郎、複雑な性格だったのではないか。堀浩哉、31年前から精悍だ。
 48年前の真鍋博、子どもっぽい。宮本三郎、ふてぶてしい。村井正誠、こんなにインテリっぽかったんだ。元永定正、もっと変なおっさんかと思っていた。
 保田春彦の35年前、意志が強そうだ。34年前の矢吹申彦、何かガキっぽい。ちょうど40年前の山口勝弘、自信家に見える。横山操の49年前、人の言うことなど聞きそうもない。四谷シモンは35年前の写真、この顔があの人形を始めたのだ。
 脇田和って穏やかそうな人だと思っていた。27年前の渡辺豊重、実際に会ったのは一昨年だったが、ちょっと辛辣なでも感じの良い人だった。
 昔(元)カミさんが、顔を見ればどういう人間かだいたい分かるわと言っていた。あんたの顔は一度見れば忘れないわよとも。
 A5判700ページだけど、B5判350ページにすれば良かったのに。写真が一回り小さくなるけど、もっと扱いやすくなると思う。でも美術出版社これはいい仕事だ。

現代アートシーン 1960年代・70年代・80年代の222人 酒井啓之写真集

現代アートシーン 1960年代・70年代・80年代の222人 酒井啓之写真集