強烈に臭い発酵食品

 雑誌「フェネック」4月号に発酵食品の研究者小泉武夫教授が「発酵食品講座」を書いている。そこで強烈な匂いの食品が3つ紹介されている。韓国の「ホンオ・フェ」とスウェーデンの「シュール・ストレンミング」、そしてイヌイットの「キビヤック」だ。
 まず韓国の「ホンオ・フェ」はエイを発酵させた刺身とのこと。

 作り方は、大きなエイを皮付きのまま、厚手の紙に包んで大きなカメに詰め、重石をして空気を抜き、カメにふたをして10日ほど発酵熟成させる。するとエイは、自己消化酵素の働きで自らの体を分解しアンモニアが発生する。また嫌気酵素によってもエイの体表にある尿素やトリメチルアミンオキサイドなどが分解されアンモニアが発生する。すなわち強烈なアンモニア臭がする食べ物になるわけです。
 食べると、強烈なアンモニア臭のパンチをあびたようなものです。口の近くに持っていっただけでポロポロ涙が出てきます。口に入れるとアンモニアと唾液の成分が化学反応を起こし、口の中がジワ〜と熱くなってくる。ついでに鼻水もじわ〜と出てきます。
 韓国では「ホンオ・フェを食べれば、100人中98人は気絶寸前までいき、2人は死亡直前までゆく」といいますが、私の場合は死亡寸前までいきましたね。

 スウェーデンの魚の発酵缶詰「シュール・ストレンミング」の臭いは「大根の糠漬とくさやと鮒鮨とチーズと生銀杏が混じったような強烈なものに、さらに腐りかけたニンニクのスパイスをかけたような感じ」とのこと。

 作り方はニシンを開き少量の塩を加え、これに細片にした玉ねぎと少量の小麦粉を加え缶詰にしてしまう。普通、缶詰は加熱殺菌することで半恒久的に保存できるのですが、この「シュール・ストレンミング」は加熱処理をしない。そのため缶詰の中で特異な過程で発酵が行われ、強烈な臭みの成分が生まれます。
 異常発酵によって生じた炭酸ガスが内部から缶を盛り上げ、缶は変形してパンパンと丸く膨張しているので、ちょっと乱暴に扱えば爆発しそうです。だからこの危険な缶詰は日本への持ち込みや輸入は禁止されています。かつて私は、研究用としてこの缶詰を3個ほど日本に持って帰ってきたことがありましたが、絶えず水で冷やして、容器ごと毛布に包んで、破裂しても大丈夫なように苦労して持ってきたことを思い出しますね。
 この缶詰を開ける時も注意が必要なんです。缶詰には4つの注意事項が書かれていて、(1)臭いが強烈なので決して家の中では開缶しない。(2)汁が噴き出すので開ける時は必ずなにかを身にまとう。(3)開ける時は冷凍室に入れよく冷やし、内圧を下げてから開ける。(4)開ける時は風下に誰もいないことを確認すること。

 さて次のイヌイットの「キビヤック」もすごい。

 こちらは肉や内臓を取り出した巨大アザラシの皮の中に、アバリアスという海燕を羽根のついたまま何百羽も入れ、アザラシの腹を太い糸で縫い合わせてから地中に埋め、さらにオオカミやシロクマに掘り起こされないように重石をのせ2年ほど熟成させれば完成。2年といっても発酵が進むのは夏だけなので、発酵期間は6か月ほどです。
 土から取り出したアザラシの内部はどろどろに溶けていますが、アバリアスはほぼそのままのかたちで出てくる。そのアバリアスの羽をむしって肛門に口をつけ「チュウチュウ」と体液を吸い出して食べる。これもくさやとチーズとつぶれた生銀杏を合わせたような強烈な臭いですが、アバリアスの肉とアザラシの脂肪が発酵した体液はマグロの酒盗のような風味でした。

 そして日本の旨い発酵食品8選として、イカの沖漬け、くさや、かぶらずし、このわた、ふぐの卵巣漬け、さんまの塾鮨、鮎のうるか、からすみが紹介されている。