笹木繁男さんのアドバイス

 現代美術のコレクターで戦後日本美術に関する資料の収集家でもある笹木繁男さんからアドバイスをいただいた。笹木さんの美術コレクション展は2003年から2004年に三鷹市立美術館をはじめ、福井県立美術館、周南市美術博物館などで開催された。わが山本弘の作品も1点含まれていた。カタログが「あるサラリーマン・コレクションの軌跡ー戦後日本美術の場所ー」という題名で発行されている。
 笹木さんのアドバイスは、一人の作家の作品をまとめて一つの美術館に寄贈するべきではないというものだった。どうしてですか? ある作家の作品を大量に収蔵してくれるのは、そこにその作家を評価してくれる学芸員がいるからだ。しかし、その学芸員が退職したりすると、次の学芸員はその作家にもう興味を示さないかもしれない。すると、大量に収蔵された作品は以後倉庫に眠ったままになってしまう。
 だから1カ所の美術館に寄贈するのではなく、あちこちの美術館にバラして寄贈するべきなのだ。そうすれば多くの学芸員の目に留まり、その作家に興味を持つ学芸員も現れるかも知れない。興味を持てば調べるだろう。その作家の作品がどこの美術館に収蔵されているか。それが分かれば集めて個展を開くのは難しいことではない。
 このアドバイスは腑に落ちるものだった。わが山本弘の作品は飯田美術博物館に50点前後収蔵されている。20年近く前の飯田美術博物館長が井上正さんという奈良の大学の教授で、その方が山本弘を気に入ってくれて、未亡人に依頼して数十点収蔵してくれた。ただしすべてを無料の寄贈という形で。
 収蔵した翌年、新収蔵品展に十数点並べられ、その数年後に須田剋太との二人展でまた十数点が展示された。それで終わりだった。井上さんは館長を辞められ、後任に創画会重鎮の滝沢具幸さんが就任された。その後は2年に1度開かれる「郷土の洋画家展」にやっと1点のみ展示されるだけだった。
 笹木さんのアドバイスが身に染みたのだった。