片山杜秀の推薦する「宮本武蔵」

 もう10数年にわたって毎週日曜日、朝日毎日読売の3紙を買い集めている。書評を読むために。新聞の書評はおびただしく出版される新刊書の何を読めばよいかを示してくれる海図なのだ。あてにならないことも多いけれど、それがなければ何を頼ったらいいのか? しかし経験的に池上冬樹の推薦するミステリはハズレが多いように思う。池澤夏樹の推薦図書にはアタリが多いような気がする。きちんと統計を取ったわけではないのでいささか曖昧だが。
 3月15日の読売新聞の書評欄に片山杜秀が魚住孝至「宮本武蔵」(岩波新書)を推薦していた。その全文。

 宮本武蔵の本質を広大な思想史的地平の中でグイとつかんだ名著。
 全体の通奏低音は禅だろう。仏教は理屈ばかりと批判され、それなら実践も込みにしようと禅が広まる。それに実践ばかりだった芸の道が影響される。能なら世阿弥。茶なら千利休。どちらも、限られた芸の基本をしっかり身につけたうえで、禅の求める無心の境地に至れば、応用は自ずと無限と結論した。「基本×無心=万能」の思想だ。基本と無心が揃えば、些末な型はどうでもいい。
 すると、剣での世阿弥や利休は誰か。武蔵だという。彼は「兵法書付」なる書物で剣法の基本の五つの型を示した。それを極め、あとは心を自由にすれば、どんな敵も倒せる。武蔵はそんな思想に達し、たくさんの型を作りたがる剣豪たちを片手で斬り捨て、もう片手では、徳川将軍の指南番柳生宗矩の、剣の実践を軽んじた精神主義に挑んだのだ。さすが二刀流!

 片山杜秀「近代日本の右翼思想」講談社選書メチエ)で優れた研究を示した。雑誌「レコード芸術」でも面白いコラムを書いていた。この人の推薦する本なら読まねばなるまい。

宮本武蔵―「兵法の道」を生きる (岩波新書)

宮本武蔵―「兵法の道」を生きる (岩波新書)

近代日本の右翼思想 (講談社選書メチエ)

近代日本の右翼思想 (講談社選書メチエ)