愚かを相手のたたかい

 ジョン・ル・カレ「スマイリーと仲間たち」(ハヤカワ文庫)から

"愚かを相手のたたかいには神も手を焼く" スマイリーの頭にシラーの句がうかんだ。シラーは官僚を加えるのを忘れている。

 この言葉と「蟹は己の甲羅に似せてその穴を掘る」という諺を杖のようにして、私はサラリーマン生活の危機を乗り越えてきた。その出典がスマイリーだとは思わなかった。ル・カレのスマイリーだったんだ。
 ル・カレのスマイリー3部作「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」「スクールボーイ閣下」「スマイリーと仲間たち」(いずれもハヤカワ文庫)はまるで大河小説のようなスパイ小説だ。ソ連のスパイ組織のボスである暗号名カーラとイギリス情報部のスマイリーとの長期間に及ぶ攻防、確執。ル・カレのミステリのすごいところは登場人物の人間が深いところまで描かれていることだ。スマイリーの不幸な家庭生活が描かれ、そのこととカーラとの攻防が密接な関係を持つ。私の一押しの長篇小説だ。

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ (ハヤカワ文庫NV)

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ (ハヤカワ文庫NV)

スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)