料理上手な友人

 料理上手な友人が二人いる。どちらもIで始まるI藤君とI田君だ。後者の田君では強く印象に残ったエピソードがあった。男5人が新年会をしたときのこと。1泊2日で会場はバツイチの独り者が住む日高市巾着田近くの1軒屋。前夜豪勢な宴会で朝目覚めると朝食の素材が全くなかった。まだコンビニができる前で近所にお店はない。
 米と味噌しかなかったのだ。たいがい諦めるのに、田君がよっしゃ大丈夫と調理を始めた。米と味噌の他にネギが半分ほど、インスタントラーメンが1食分あった。田君はこの半分のネギとインスタントラーメンの麺だけを使って、何と5人前の味噌汁を作ったのだ。もちろん熱いご飯と。
 まるで錬金術のようなあの朝食を忘れることができない。
 似たエピソードがマタイによる福音書にある。

 弟子たちは言った。「わたしたちはここに、パン五つと魚二ひきしか持っていません」。イエスは言われた。「それをここに持ってきなさい」。そして群衆に命じて、草の上にすわらせ、五つのパンと二ひきの魚とを手に取り、天を仰いでそれを祝福し、パンをさいて弟子たちに渡された。弟子たちはそれを群衆に与えた。みんなの者は食べて満腹した。パンくずの残りを集めると、十二のかごにいっぱいになった。食べた者は、女と子供とを除いて、おおよそ五千人であった。

 まあ、われわれは五千人ではなく、わずか5人であったけれど。
 この田君とはなぜか気が合う。共通する趣味は酒だけ。田君の趣味は飲む打つ買う。私の趣味はこのブログに書いてあるとおりだ。私の趣味に田君は全く興味を示さない。二人だけで飲むと話題に困ってしまう。
 それで昔カミさんに、田君とは共通の趣味が全くないのにどうしてこんなに気が合うんだろうと言ったら、あんたたち二人ともバカだからよと言われた。私はこの答えに感心してしまった。たしかにバカなところが共通しているのだ。後日そのことを田君に話したら、ちょっとだけ嫌な顔をした。でもほら俺たちってバカじゃん。
 ついでに田君がどんなにおバカかというエピソードを紹介しよう。彼の勤務する工場の入口に大きな栗の木がある。初夏の頃栗の花が咲くと独特の強い匂いが漂う。うちの会社の女子社員たちはあの栗の木の下を知らん顔して通り過ぎるんだ。あいつら、かまととだよ。じゃあ、どんなアクションをすればいいんだい? ちらっと栗の花を見て恥ずかしそうに笑えばいいんだよと真剣な顔で言う。カミさんの言うとおりだ。