佐藤美術館の三瀬夏之介展「冬の夏」

 佐藤美術館で三瀬夏之介展「冬の夏」が始まっている(2月22日まで)。三瀬夏之介は1973年奈良生まれ、京都市立芸術大学大学院を修了して、2007年から1年間五島記念文化財団からフィレンツェに派遣されている。
 三瀬は日本画を描いている。しかし伝統的な日本画ではなく、いわば現代美術に近い荒々しいものだ。佐藤美術館では3階と4階の展示室を使っている。3階の作品は描き続けられている35曲にも及ぶ屏風だ。そこにたくさんのイメージが描き込まれている。北斎の波裏、ボート、高層ビル、船、大魔神、UFO、五重塔、壊れた自動車、大仏、爆発、ネッシー縄文式土器、旅客機、潜水艦、闘っているような少年、雑多なイメージが重なって画面の隅々まで覆っている。
 4階は大きな作品が並んでいる。「ぼくの神さま」は中心の山が噴火しているかのようだ。気球みたいな飛行船みたいなものが浮かんでいる。飛行機らしきものも見える。建物が崩れている。すべてが大きな混沌のなかにある。「日本画滅亡論」には写真や印刷物がコラージュされている。日の丸の旗や旭日旗が描かれ、「日本画復活論」には十字架を屋根に置いた外国の教会らしき建物が描かれている。いずれも共通するのは破壊と混沌だ。そしてどの画面も隅々まで描き込まれていること。
 これらの作品を見ながら私が思い出していたのはアンゼルム・キーファーだ。何が共通するのだろう。一つは荒々しい具体的なイメージが描き込まれていること、もう一つは画面の背後の思想性ではないか。「月刊美術」の本江邦夫との対談で、三瀬は阪神淡路大震災の直後に救助のために現地を訪れショックを受けたと語っている。三瀬の作品に繰り返し現れる破壊と混沌の原体験がこの地震にあるのだろう。
 三瀬は破壊と混沌を描き続けている。不思議なのは「破壊と混沌」でありながら、なぜか悲惨な感じが少ないのだ。あるいは三瀬の思想の底に建設への希望があるからなのだろうか。分からない。
 三瀬は今年のVOCA賞の大賞に選ばれたらしい。それはとても良いニュースだ。このところVOCA賞の大賞受賞者に首を傾げる作家が多かったからだ。ようやく大賞にふさわしい画家が受賞することになったのだ。
 以前、そのことを皮肉って「VOCA賞の大賞に寅さんが選ばれるわけ」(2007年4月30日)を書いた。今回喜んでそれを取り消そう。

 佐藤美術館
 東京都新宿区大京町31-10
 TEL.03-3358-6021 FAX.03-3358-6023
 http://homepage3.nifty.com/sato-museum/
 1月15日〜2月22日(月曜日休館)
 開館時間10:00ー17:00(金曜はー20:00)
 入場料500円(学生300円)
 JR信濃町駅より徒歩6分、JR千駄ヶ谷駅より徒歩5分、地下鉄大江戸線国立競技場駅A3出口より徒歩4分