ベストセラーを頻出していた草思社がなぜ倒産したのか

 昨年、一時はベストセラーを頻出していた出版社草思社が倒産し、自費出版で台頭してきた文芸社に買収されてその子会社となった。いったい何が起きたのか? 
 草思社といえば「なぜ美人ばかりが得をするするのか」「他人をほめる人、けなす人」「謝らないアメリカ人 すぐ謝る日本人」「ツルはなぜ一本足で眠るのか」などユニークな題名の本を出していた印象が強い。もともと草思社徳大寺有恒の「間違いだらけのクルマ選び」シリーズが売上げの中心で、それ以外は地味な出版社だった。それがユニークな題名の本が次々とベストセラーになり、新聞広告も毎月「全5段」を出稿していた。全5段というのは、天地が5段、左右がページいっぱい(約17センチ×38センチ)の大きさで、広告料が相当高いのだ。
 しかし、いつの間にか広告が「半5段」(全5段の半分)になり、そのうちあまり見かけなくなって、昨年倒産してしまった。
 草思社のベストセラーは「声に出して読む日本語」以外読んだことがなかった。それが最近知人に勧められてM. スコット・ペック「平気でうそをつく人たち」(草思社)を読んだ。奥付を見ると10年前の1996年12月に初版を発行し、その3か月後に10刷を発行している。ユニークな題名のベストセラーだ。だが、題名の内容を期待して読んだら少し違っていた。
 原題がPEOPLE OF THE LIEで、直訳すれば「虚偽の人々」となる。精神神経科を訪れる患者のなかに、子どもや家族をひどく抑圧する「邪悪な」精神をもった者たちがいる。彼らはそのことを決して認めないし自覚することもない。対世間的には良い人を装っている。それを虚偽の人と呼んでいるのだ。またそれを敷衍して、ベトナム戦争のソンミ村事件を取り上げて、「集団の悪」について考察している。
 本書はそれなりに興味深く読んだが、ベストセラーになるような万人向けの内容ではない。いうなれば精神分析医の症例報告だ。それがベストセラーになったのはひとえにユニークなタイトルのせいだろう。私はこのたった1冊を読んだだけなので、かなり大雑把な意見なのだが、このようにユニークな題名でさほど面白いとは言いかねる内容の出版を続けてゆけば、読者はそのうち飽きてくるに違いない。羊頭狗肉とか狼少年といった言葉を連想する。
 するとどうなるか。当然売れなくなってくる。草思社の出版内容をざっと見てみたが、本当に魅力的な本が少ないように思う。どちらかと言えば、ハウツーものに毛が生えたようなのが多いのではないか。これでは早晩左前になるのは必然だったのかもしれない。