ソクーロフ「チェチェンへ/アレクサンドラの旅」

 ソクーロフ監督作品「チェチェンへ/アレクサンドラの旅」を渋谷ユーロスペースで見る。撮影時点で80歳のロシアのソプラノ歌手ガリーナ・ヴィシネフスカヤが主演の戦争映画。といってもおばあさんがチェチェン駐屯のロシア軍の孫を訪ねる話。不便な貨車に兵隊たちと同乗してチェチェンの駐屯地へ行き、大尉の孫に会う。駐屯地の中を歩き回り、外出許可も持たないで外のバザーまで出かけていく。チェチェン人のおばあさんと仲良くなり、砲撃で崩れた彼女のアパートまで案内される。
 駐屯地では孫の大尉と語り合う。2年前に夫を亡くして自由になったとか、体は年老いたが死にたくない、ひとりは淋しいなどと。孫を抱いていい匂いとつぶやく。
 映画の中では大きな事件は何も起こらない。おばあちゃんが歩き回り兵隊たちと言葉を交わし、蕎麦粥をおいしいと言って食べる。この映画の優れているところは、ガリーナ・ヴィシネフスカヤの存在感と、終始聞こえ続ける駐屯地の騒音、兵隊たちのお喋りや車輛のたてる音。いわば雑音に取り囲まれて映画が進行している。
 ソクーロフ昭和天皇を描いた「太陽」や、他にヒトラースターリンを描いた映画を撮っている。「太陽」はさほど感心しなかったが、「チェチェンへ」はとても良かった。地味な映画なのに1時間半があっという間だった。
 もっとも娘に言わせると、父さんは婆ちゃん子だったからおばあちゃんが出てくればいいんでしょう。確かに中村美代子というおばあちゃん女優のファンでもある。

 写真は私の好きな女優中村美代子
 以前、朝日新聞山根貞男の映画評が載ったのを紹介したことがある(id:mmpolo:20081215)。