不世出のお笑い芸人「林家三平」

 筑摩書房のPR誌「ちくま」1月号に佐野眞一が連載している「テレビ幻魔館」で落語界に厳しい意見を呈している。泰葉の記者会見をテーマに書き始めて、最後に泰葉を全面的に支持している。「負けるな、泰葉。二代目林家三平を襲名するのは、間違いなく君だ。」

 落語もろくにしゃべれず、人柄も悪そうな林家こぶ平が、実力もないくせに、林家三平の長男というだけで、大名跡林家正蔵を襲名したり、人のよさだけでもっている林家いっ平が、二代目林家三平を襲名すると聞いて、落語界はいつから歌舞伎になったんだ、林家三平の才能はやはり一代限りで終わるのかと思っていた。
(中略)
 三平がブラウン管に初めて登場したとき、私はついに不世出のお笑い芸人が現れたと思った。天然パーマのもじゃもじゃ頭にゲンコツをあてて、「どうもすいません」「ほんとにもう、からだだけは大事にしてくださいよ」「ゆうべ寝ないで考えたんすから」というだけで、おかしくておかしくて、涙が出るほど笑った。
 その乾いた笑いとヌケきった演芸スタイルは、同時期に登場した立川談志も、三遊亭円楽も、三遊亭歌奴(現・三遊亭円歌)も、誰にも絶対マネできない天才芸だった。三平がいまでも「永久欠番の落語家」といわれるゆえんである。
 白眉は昭和40年、日本テレビで放送が始まった「踊って歌って大合戦」である。司会の林家三平が黒紋付袴姿で「踊って歌って」と絶叫しながら、顔も身振りもタコそっくりに踊り出すと、舞台、客席とも総白痴化と化して狂ったように踊り始める。あれは、この世のものとは思えない恐るべきハイテンション番組だった。
 その三平は、昭和55年、54歳の若さで世を去った。三平は瀕死のベッドで医者から「しっかりしてください。あなたのお名前は?」と問われて、「加山雄三です」と答えたという。作り話だろうが、私が一番好きな三平のエピソードである。こんな伝説を残せるのは、制御不能なリビドーを抱えた泰葉しかいない。
 だから負けるな、泰葉。二代目林家三平を襲名するのは、間違いなく君だ。

 この「踊って歌って大合戦」は見たことがあった。司会の林家三平が黒紋付袴姿で「踊って歌って」と絶叫しながら、顔も身振りもタコそっくりに踊り出すのも覚えている。決して良い印象ではないが、忘れられない番組だった。