人は何を見に行くのか

 映画や芝居に人は何を見に行くのだろう。以前木冬社の芝居で平幹二朗が主演していた頃、劇場はいつも満員だった。木冬社の主宰者である脚本の清水邦夫は長い台詞を書く。平幹二朗や木冬社の主演女優松本典子が舞台で朗々と語る長い台詞を聞くことは本当に快い体験だった。まるでオペラのアリアを聴くようだった。平幹二朗の人気が分かるというものだ。
 芝居は役者に対して長期間の拘束を強制する。そのためばかりではないだろうが、ある時から平の木冬社への客演がなくなった。途端に今まで満席だった客席が半分空席になってしまった。来なくなったお客さんたちは平幹二朗を見に来ていたのだ。
 多くの観客は芝居そのものではなく、好きな役者を見に行くようだ。それは映画でも同様だ。それで有名な俳優のギャラが高いのだ