世田谷美術館で山口薫展を見て


 世田谷美術館でやっている山口薫展を見た。山口薫は1907年群馬県生まれ。美術学校を卒業後3年間ほどパリへ留学する。若い頃の作品は不器用で決して上手くない。ドランやマチスの影響が見える。
 帰国後しばらくして自由美術協会を結成し、また戦後はモダンアート協会を設立する。

 戦後の山口の活躍はすばらしい。次々と国際展に出品し画商の注文に追われる日々となった。彼は名実共に『生前に評価を受けた画家』となっていったのである。『好きな絵描いて、ドシドシ売れたら絵描きはやっぱり幸せだろう』と私も思う。しかし絵描きの幸せとは。静かに画想を練る時間を失い、その為に過度のアルコールとの付き合いが始まり、最後はこれが自身の寿命さえ縮めた山口。『それでも画家として立ったなら評価は嬉しかろう。画家は絵の中に自身を切り込め人生と引き替える商売なのだから。』
大川美術館 岡義明の言葉

 山口薫の出身地の群馬県近代美術館と、京都にある現代美術館・何必館(かひつかん)には山口の多くのコレクションがある。

山口薫は、作品がたたえる豊かな詩情から「詩魂の画家」と評された洋画家である。秀でた色彩感覚と造形的感性によって、独自の画業を展開した。
何必館のページから

 山口の評価は高いものがある。愛好家の人気も今もって衰えていない。
 今回の世田谷美術館の晩年の大作が並べられた最後の部屋は、寡黙で叙情的な抽象が取り巻いている。上品で静かな世界だ。それはこの9月に見た日本橋高島屋の絹谷幸二展の騒々しくぎらぎらした下品な世界の対極にあるものだ。そう言いながら、山口薫のこの上品な叙情性が物足りないのも事実なのだった。