リアリスト菊池寛

 小島政二廊「長篇小説 芥川龍之介」(講談社文芸文庫)に菊池寛のエピソードが紹介されている。

 菊池(寛)はリアリストであるから、リアリストの志賀(直哉)の小説を理解するのに少しも無理はない。

 菊池寛がリアリストだったことは他の人も語っていた。誰が書いていたか忘れたが、作家たちの地方講演会があった折り、旅館に着いた同行の作家たちが外出したのに、菊池は疲れたからと部屋で一人休んでいた。眠っていると胸が苦しい。目を醒ますと胸の上に幽霊が座っていた。菊池はお前はいつから出ているのだと聞いた。幽霊はいついつからだと答えて消えた。
 旅館の主人に尋ねると、出ましたかと言って、幽霊が答えたいついつの頃その部屋で自殺者があったのだと答えた。このエピソードを紹介していた著者が、菊池寛はリアリストだから、幽霊が出ればいつから出ているのかと考えるのだと書いていた。