内藤礼の作品がよく分からない

 去る17日に東京都現代美術館内藤礼茂木健一郎の対談があった。現在同美術館ではユーグ・レブというアーティストの企画した「Parallel Worlds」と題された現代美術の展覧会が開催されており、内藤礼も大きな作品を出品している。それに因んで彼女と茂木健一郎との対談が企画された。定員200名の会場はほぼ満員、予定時間は2時間だが、茂木は所用で1時間で退席する旨予告された。残りの時間は住友学芸員が相手をする。
 茂木健一郎は冒頭、内藤礼が自分にとって最も重要な美術家だと言う。彼女の作品から多くのことを考えさせられた。初めて作品に接したのは直島(ベネッセアートサイト直島)で、古い民家を改装した展示場に入ったとき最初は何かよく分からなかった。しばらくして会場内にいろいろな小さいものが置かれていることに気づき、彼女の作品に取り憑かれてしまったと言う。
 ベネッセアートサイト直島内藤礼の作品「きんざ」、1人ずつ入館し、15分間鑑賞する。
 http://www.naoshima-is.co.jp/concept/art/kinza.html
 1997年にヴェネツィアビエンナーレに「地上にひとつの場所を」と題する作品を出品した。ここでも会場には1人だけ入場し数分間鑑賞するという方式を採った。
 水戸芸術館キュレーター森司による優れた解説がある。

 第47回ヴェネツィアビエンナーレ日本館に展示された彼女の初期代表作「地上にひとつの場所を」は、91年に佐賀町エキジビット・スペース(東京)で発表されたものだ。直径15メートルの楕円形のテントの中に、繊細な細工の施されたオブジェがインスタレーションされている。鑑賞者は靴を脱ぎ、綿を敷き詰めたような床を中央部に進み、用意された座に腰を下ろして作品を体験する。
 完結した柔らかな空間の中でそれらのオブジェと向き合う行為は、他ならぬ自分に向き合う事でもあった。精神的世界を鑑賞者が作品から想起しても不思議はない。
http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/feature/0821/mori.html

 今回の作品は「通路」と題され、美術館内に部屋が作られている。幅5メートル、奥行き10メートルくらいか。妻の右端に高さの低い入口がある。内部に入ると部屋の両側に金属の黒い手すりが付けられている。妻側の壁には大きなガラス窓があり外が見える。外から見たとき気づかなかったのはマジックミラーのためらしい。その窓に接して水道の蛇口と洗面台が設置してあり、蛇口からは細く水が流れ続けている。右手の手すりの下に小さな電球が灯っていて、電球は重ねられた2枚の白い皿に載っている。
 向こう側の妻の壁にはもっと大きなガラス窓があり、やはり外が見えている。窓の手前と向こう側に水が入ったガラス瓶が置かれている。天井には採光の窓が二つ。入口と対象の位置に出口がある。外に出て部屋の周囲を回る。マジックミラーの窓には両側とも紗が掛けられている。
 以上は物理的な説明だ。私は内藤礼のこの作品を見るために日を変えて2回見に行った。しかし私には内藤礼の作品がよく分からないのだ。
 内藤礼の言葉。

・若い頃は自分がいるんだろうかと疑問だった。30代半ば、他人がいることに気づいた驚き。
・見慣れたものを初めて見たように思えるか。
・死者の眼差しを持ちたい。「地上はどんな所だったか」
・自分の部屋で制作をしていて、ふとベランダに出て部屋を振り返ったとき、自分が座っていた机、椅子が見え、その時小さな人の一生が一瞬にして見えた感じがした。

 内藤礼がよく分からない。しかし不思議な魅力を持った作家だ。いつか直島にも行きたいし、彼女の作品を見ていきたい。

【補足】茂木健一郎が1時間で退場した直後、聴衆の3分の1くらいが退出した。ここの講堂は舞台の前を通らないと退出できない構造になっている。内藤礼と住友学芸員の前をぞろぞろと帰っていく。失礼な連中だった。