小嵐九八郎「蜂起には至らず」をようやく読んだ

 小嵐九八郎「蜂起には至らず」(講談社文庫)を読んだ。講談社のPR雑誌「本」に連載されていた頃拾い読みしていて興味はあるのになかなか読む気になれなかった。なにしろ副題が「新左翼死人列伝」といい、革マル派を除く27人の死者について書かれているのだ。その多くが内ゲバやリンチ、自殺、警察などに殺されている。でもやはり読むべきだと手に取った。
 まず60年安保で亡くなった樺美智子さん。「意思表示」の歌人、自殺した岸上大作さん。恋人が他セクトのために自殺した「青春の墓標」の奥浩平さん。羽田闘争で機動隊と渡り合い亡くなった山崎博明さん。佐藤首相訪米に講義して焼身自殺したエスペランティスト由比忠之進さん。ブント関東派に監禁され脱出しようとして校舎3階から転落死した赤軍派の望月上史さん、樋を伝わって降りようとしたがゲバ棒が握れないように指を潰されていたのでうまく樋が掴めなかった。友人の小林幸子さんの歌「もしきみが椿であれば壊れずに血を零さずに落ちにしものを」。ガンで亡くなった高橋和巳さん。革命左派メンバーたちに殺された早岐やす子さんと向山茂徳さん、革命左派はのち連合赤軍となる。重信房子さんと親しかった遠山美枝子さん、榛名山連合赤軍のメンバーによるリンチとその後緊縛された状態で放置されて死亡。山田孝さん、連合赤軍のメンバーによるリンチとその後緊縛されたまま放置され死亡。テルアビブで銃を乱射した後で自爆した奥平剛士さんと安田安之さん、この時生きて捕まった岡本公三さんはイスラエルの警察によって徹底的に痛めつけられ、その後釈放されたが廃人同様になっていた。鹿児島大学の学生で当時彼が採集した虫瘤の標本が残っている。革マル派に拉致されリンチされて死んだ川口大三郎さん。連合赤軍の中心メンバーで拘置所で自殺した森恒夫。リンチを主導したのが森と永田洋子だった。前迫勝士さん、中核派のメンバーで革マル派との内ゲバの末死亡する。中核派のトップ(革共同書記長)本多延嘉さん、革マル派にアジトを襲われ殺される。本多さんの死後、4か月ちょっとで中核派は12人の革マル派を葬っていく。(と書かれている)。三井物産本館を爆破した大地の牙の斉藤和さん、逮捕直後に青酸カリ自殺。著者と同じセクト社青同解放派のトップ中原一さん、内ゲバによる革マル派の襲撃を受け死亡。中原一さんが殺されてからほぼ2か月後、革労協革マル派政治局員ら4人を一挙に葬っている。(と書かれている)。三里塚闘争で機動隊のガス弾が頭部に直撃して亡くなった東山薫さん。飲酒のうえ盗難車を運転しトラックと衝突して死亡した谷口利男さん。三里塚芝山連合空港反対同盟委員長でガンで亡くなった戸村一作さん。山谷闘争で映画を撮影中や映画完成後に暴力団に射殺された佐藤満夫さんと山岡強一さん。赤軍派に入り単身ペルーに渡ってゲリラのセンデロ・ルミノソに射殺された若宮正則さん。赤軍派を結成し、よど号をハイジャックして北朝鮮に渡り、心臓マヒで死亡したと発表された田宮高麿さん。ブント書記長として60年安保を指導した島成郎さん、胃ガンで亡くなる。
 著者は革マル派と対立した社青同解放派に属したとのことで、革マル派の死者については取り上げていない。またすべてに「さん」付けで書いている。森恒夫永田洋子には付けたくなかったとも書いていたが。
 連合赤軍のメンバーで死刑が確定した歌人坂口弘について次のような評価をしていた。

 坂口さんのいろんな歌を、いろんなところで歌人として評価して紹介してきたけれど、事件後20年以上経っての1995年発行の手記でこんな水準の思いなのかとその歌への不信となる。ついでにいえば『わが胸にリンチに死にし友らいて雪折れの枝叫び居るなり』という朝日新聞の歌壇で選ばれた坂口さんの歌は、優れた一首である。短歌の強さであり限界である一人称に依拠し、本人にしか体験でき得なかったことを簡潔に無駄なく、詩として表現し得ているから。死刑確定以後、朝日新聞に歌は発表できない死刑囚の昨今の厳しい状況があり、これは何とか突破しなければならぬのが物書きの連帯事項かと思う。されど、そもそも五句三十一音で、夥しいバリケード内リンチ死を総括できるなど、坂口さんは安易に考えぬ方がよろしい。短歌は、逃げ、哭(な)きの器の面が大きく、感性の名を騙って溺れ、自分をも誤魔化す。ことの原因と反省と未来へ向けての言をなそうとするのなら、おのれをきちんと点検できる散文とともにやるしかない。今は親族としか交流できないとしても、死刑執行された永山則夫さんの遺書としてのウン千枚の小説も先達としてある。

 坂口弘については私も以前何度か書いたことがあった。
 坂口弘の新しい歌集「常しへの道」(id:mmpolo:20071112)
 朝日歌壇に掲載された坂口弘の短歌II(1992年)(id:mmpolo:20070610)
 朝日歌壇に掲載された坂口弘の短歌I(〜1991年)(id:mmpolo:20070609)
 「国家の罠」のささいなエピソード(id:mmpolo:20061227)