手塚プロの実在した小悪党

 もう古い話だから公開してもいいだろう。当時クライアントの要請である商品のイメージキャラクターに鉄腕アトムを契約していた。その頃はまだ鉄腕アトム著作権日本テレビが管理していて、交渉はすべて日本テレビと行なっていた。契約して何年目かに手塚治虫が亡くなった。クライアントの部長とともに青山葬儀場の葬儀へ参列し、その後バスに乗って移動したとき何かの手違いで親戚のためのバスに乗ってしまった。親戚の方たちの会話が漏れ聞こえてきた。「手塚先生がああいう性格だから事務所(手塚プロ)からいい人たちが皆辞めてしまって、変な人たちばかり残ったのよ」
 契約は日本テレビと行なったが、イラストは手塚プロのデザイナーに描いてもらった。その時相手をしてくれたのが手塚プロの版権部長だった。意地の悪い人だった。日本テレビの部長が、あの人は相手が弱い立場だといじめるんですよと言っていたがその通りだった。

 鉄腕アトムのマンガに髪の毛が額で渦を巻いている横山ノックのような小悪党が登場する。いや本当は逆でその小悪党の髪型を横山ノックが真似たのだったが。手塚プロの当時の版権部長に会ったとき、すぐに手塚先生がこの版権部長の顔を下敷きにあの小悪党のキャラクターを作り出したのだと分かったのだった。そっくりなのだ。まあ、さすがにあそこまでの悪人の顔ではないが。いやこんな悪口を書いているが、その部長は何年もまえに定年退職してしまった。(アトムに登場するあの小悪党、何て名前だったっけ?)
 鉄腕アトム著作権の管理は、その後日本テレビ→A&R→手塚プロダクションと移った。A&Rとはアトムの著作権を管理するために日本テレビ手塚プロダクションが作った合弁会社だ。Atom & Register の略。その代表が内藤一彦さんで、そのお爺さんにあたる内藤伸については、以前「彫刻家内藤伸」で紹介した。