丸谷才一のエッセイ集「月とメロン」(文藝春秋)は「オール読物」に連載していたせいか、同じ丸谷が朝日新聞に連載していた「袖のボタン」にくらべ、ずいぶん力を抜いている。面白い話がいくつもあったが、直井明の連載評論にエルモア・レナードの「小説作法十則」というのを見出したとして、それを紹介している。
1 作品の冒頭に天気の話は決して持ってこない。
2 プロローグは避ける。
3 会話のつなぎには「……と言った」("said")以外の動詞を決して使わない。
4 "said"(「……と言った」)という動詞を修飾する副詞は決して使うな。
5 感嘆符は控えめに。
6 "suddenly"(だしぬけに)とか"all hell broke loose"(大混乱に陥った)という言葉は決して使うな。
7 方言や訛りはほどほどに。
8 登場人物のこと細かな描写は避ける。
9 場所や事物のディテール描写には深入りしない。
10 読者が読まずに飛ばしそうな箇所は削る。
(中略)2のプロローグを避ける、といふのは、いきなり肝腎の所にはいれといふことでせうね。当たり前である。しかしこの当たり前のことを知らない小説家が多くて困るよ。
わたしは志賀直哉「暗夜行路」を読んだとき、あのプロローグに閉口して、これは駄目な小説にちがひないと思つたが、果して予感は的中した。ズバリでした。
前にも書いたが、昔は志賀直哉って小説の神様なんて言われていたし、「暗夜行路」を世界十大小説に選んだ文芸評論家もいたのだ。これも夜郎自大か。