丸谷才一の小林秀雄批判

 毎日新聞の6月1日の書評欄で、丸谷才一岡田暁生「恋愛哲学者モーツァルト」(新潮選書)を紹介している。

 宮廷の遊戯愛でも、プラトニック・ラブでもない、心情による愛を結婚の前提とする考え方は18世紀初頭のイギリスで生れ、ドイツでは18世紀半ばから勢いを得る。モーツァルトが心情による愛と結婚を求めたことは有名だが、彼はこの新しい恋愛観のもたらす歓びと嫉妬の苦しみを題材にして、あの清新で豊かで多彩な4大オペラを作った。オペラの作曲家としての寡作も、台本を選び、積極的に口を出したのも、このせいだろう。そのへんの事情をリブレットと作曲の双方からこまやかに探ってゆく論じ方は読みごたえがある。わたしは小林秀雄の「モーツァルト」(1947)が器楽中心でオペラを軽んじ、ただただロマンチックで18世紀に対し無関心なのにあんなに耳目を聳動(しょうどう)したという文学史的事実を思い浮べ、ついにこの俊秀の論を得たことをわが音楽批評の成熟のしるしとして喜んだ。

 丸谷は繰り返し小林秀雄批判を書く。(id:mmpolo:20061002)
 小林の現在の評価の高さを思えば、もっと批判が現れてもいいのではないか。