先に桜庭一樹「私の男」(文藝春秋)は父と娘の近親相姦を描いた気持の悪い小説で、どうしてこんな半端でつまらない小説がベストセラーになるのだろうと書いた。(id:mmpolo:20080419)
付け加えると、近親相姦を描いたから否定したのではない。小説では何を書いてもいいだろう。それにしても父娘の近親相姦は相当異常な出来事だ。なぜそんな禍々しいことが起こったか、作家はそのことをちゃんと説得しなければならないが、これが全くできていない。ついで、父娘と周囲の者たちとの間には葛藤が生じて、それが事件にもなり二人の人生を変えていくのだが、肝腎の父と娘との間にはこのことに対する葛藤がないのだ。それが一番大きなテーマではないか。
さらに各章ごとに語り手が変わるのに文体が変わらない。凍死した老人の側にあったカメラには犯人の写真が写っていたはずなのに、それには一切触れられていない。性描写がしつこくて下品だ。どうして性描写となると即物的になってしまうのか。要するに下手なのだ。これが直木賞受賞作と聞いて驚いたのだった。