寿司屋の値段

 もう30年以上前になるが、寿司屋で面白い体験をした。知人と飲んだ後、彼のなじみの寿司屋へ行った。そこの寿司がうまかったので、後日寿司好きのカミさんと二人で行った。飲屋街にあって酔客を相手にしているようで、早い時間に行くとほかに客が誰もおらず、貸し切りのように板前さんとお喋りしながら色々注文した。会計は8,800円だった。当時の給料の1割以上の値段だったのではないか。
 それから時々通った。いつも口切りの早い時間でほとんど食べるだけの飲まない客だった。通うごとに勘定は低下し、1年ほどたってカミさんの両親と弟を連れて5人で腹一杯飲み食いしたとき、1万円でお釣りをもらったのが印象的だった。
 板前さんから、関東大震災で東京の寿司職人が関西へ流れ、戻ってきたとき下駄を履く習慣ができていたとか、見せ包丁の話を聞いた。見せ包丁とは、各地を流れて歩く寿司職人が自分の腕を示すのに、ちょうど良く使いこなした包丁を示してアピールするのだが、そのための包丁のこと。見せ包丁は普段使わないのだ。そんな雑学を教えてくれた。
 さすがに酔客相手に高い値段を付ける寿司屋は、住宅街の中にあって一般家庭を相手の寿司屋よりネタが良くうまかった。