南極1号について私が知っている二、三の事柄

 読売新聞4月27日の書評欄に春日武彦による高月靖「南極1号伝説」(バジリコ)の書評が掲載されていた。

 書名の南極1号とは、少なくとも中年以上の男性にとっては伝説と化している名称である。第1次南極越冬隊が、若い隊員のため性欲処理人形=ダッチワイフを携え、しかもその開発は国家プロジェクトであったというものである。
 このまことしやかな話と、ポルノショップで見かける風船式の異様かつキッチュなダッチワイフの外観から、いったい特殊人形を相手にセックスを行うことは異常なのか、またどんな人がユーザーなのかといった素朴な疑問が、しばしば艶笑話やエロ漫画における揶揄といった形で男性諸氏の好奇心をくすぐってきたのだ。
 現在では、ダッチワイフはきわめて精巧なフィギュアへと変貌し(それに応じて名称もラブドールとなった)、キッチュがシュールへと移行した趣がある。(後略)

 このラブドールというのはオリエント工業の製品である。オリエント工業のホームページは、http://www.orient-doll.com/top.html
 そんなことを知っているのは私がすでに購入しているから、ではなく、昨年銀座の妖しい画廊として有名なヴァニラ画廊でこのラブドールの展示があったからだ。入場料500円を払って私も行ってみた。風船式のダッチワイフとは雲泥の差のよくできた人形があった。胸に触らせてもらうと柔らかくもち肌のような感触だ。腰には女性器をはめるソケットみたいなところがあるそうだが、それをはめて展示すると警察に叱られるとかで、見せてもらったのは胸だけだった。よくできていると思ったが相当高額なのだ。デジタル1眼レフカメラよりはるかに高い。
 昨年亡くなったギャラリー汲美の磯良さんが演出した映画「Gallery」には風船式のダッチワイフが登場した。お爺さんが夜中に浴室で何かしている。成人している息子が起き出して、オヤジ何をしているんだと聞くと、このダッチワイフに穴が開いてしまったようなので、風呂に漬けて穴の場所を探しているんだ、お前も手伝ってくれと答えた。自転車のタイヤのパンクを調べる方法と同じやり方だ。磯良さんによればこれは実話で、お爺さんは私もよく知っているベテランの画家だった。本人が話してくれたらしい。
 映画のためにポルノショップへ買いに行ったが恥ずかしかったという。私もヴァニラ画廊で、胸に触ってもいいですよと女性係員に言われたとき、やっぱり恥ずかしかった。でもちょっとだけ好奇心が勝ったのだった。
 南極越冬隊では結局誰もダッチワイフを使わなかったという。みんな恥ずかしかったのだ。