外神田の食べ物屋

 秋葉原駅の北側を外神田と言って、昔は青果物市場があった。その跡地がいまは新しいビル街になっている。これはまだ青果物市場があった頃の話。外神田の北端近くにお昼サラリーマンで一杯になる古そうな食堂があった。数種類の定食を出していたが、どの客にも竹筒の小さな杯に冷や酒を出していた。もちろん昼間からサービスで。いかにも市場近くの食堂を思わせた。
 その近く、蔵前橋通りに面してこれも小さな蕎麦屋があった。私がまだ蕎麦にはまる前で、一度だけ入ったが山菜蕎麦を注文したのだった。普通蕎麦屋は昼時が稼ぎ時なのに、この蕎麦屋は昼は暖簾を引っ込めるのだった。夕方近くから営業していて私が山菜蕎麦を食べたのも、営業帰りの小腹がすいた夕方ではなかったか。蕎麦に目覚めてあっ! と思ったときは、老夫婦二人でやっていたこの蕎麦屋はもう店を閉じた後だった。何か田舎へ越していったと聞いたのだった。
 池波正太郎が贔屓にしたという料理屋「花ぶさ」もこの近くだ。