発行されたばかりの小山登美夫の「現代アートビジネス」(アスキー新書)を読む。著者は村上隆、奈良美智を擁する小山登美夫ギャラリーのオーナーである。現代美術のギャラリーとしてはトップクラスといえるだろう。大学卒業後ギャラリーでのアルバイトから始まって今日の地位を築いたという意味ではいささかなりと立志伝に類するはずなのに、この文章の緩さは何か。
内容は文字通り「現代アート」の「ビジネス」を語っていてそれ以上でも以下でもない。文章は難しいところは全くなく、意味が真っ直ぐに伝わってくる。淡々とした文章なのだ。なぜ成功譚がこうまで平たく、盛り上がりがなく語られるのかという疑問は「あとがき」を読んで解明される。
「僕が話した内容を文章にしてくれた和田京子さん、この機会を与えてくれたアスキーの松下幸子さん、ありがとうございました。」そういうことだったのだ。
話されたことから意味をすくい上げるのは難しいことではない。しかし、その人の味わった感動を拾い上げるのは、それを定着させるのは簡単なことではない。話されたことの感情を捨象し意味だけを取りだしたのがこの「現代アート・ビジネス」という本だったのだ。ハウツー本を前にして何を大げさなことを言っているのだ。いやいや獅子は鼠を狩るときも全力を奮うというではないか。