「考えるひと」2008年春号が「特集 海外の長編小説ベスト100」だ。それを検証する座談会が載っている。加藤典洋、豊崎由美、青山南の3人だ。なかにル・クレジオ「調書」に関する言及がある。この本は私が高校3年の時に日本で翻訳出版されてすぐに買い、その後何年も毎年読み直した小説だ。どうして文庫にならないのだろう。
加藤 ある世代の読者を動かしていくブームみたいなものがあるよね。「海」という雑誌があって、それを読んでいた人たちのなかから豊崎さんみたいな人が生まれてくる。僕が高校生だった60年代半ばに、「現代フランス文学13人集」とか、「現代ソヴィエト文学18人集」とかいうアンソロジーが新潮社から出て、非常にマイナーなものなんだけど、僕たちの世代へのインパクトは大きかったですね。
青山 豊崎さんで思い出した。ル・クレジオ入れるの忘れたな。
豊崎 豊崎光一さんの訳ですね。
加藤 入れようと思ってたんだよ、僕。入れたっけ? 入れてない?
青山 「調書」は入れなかったな。
加藤 「調書」は入れなきゃいけないんですよ。若いときのこと考えると入れなきゃ申しわけない。だって、あの「調書」でしょう。そのあと「発熱」があって、「物質的恍惚」「大洪水」……。
青山 加藤さんと僕は年齢が近いので、「調書」が翻訳されたときの日本での大騒ぎはよく覚えています。「物質的恍惚」も大好きでした。
加藤 出てすぐ買ったんですよ。ちっちゃい本屋でね。帯の背に「新しい嘔吐」と書いてあった。66年、大学1年のときです。
青山 「調書」は大変な話題になりましたね。訳がまた斬新だった。「調書」はかなりぶっ壊れた小説で、ああいう小説を書いた人は、やっぱりのちのちインディオのほうに行くだろうなと思う。
現代フランス文学13人集」(全4巻)は私も持っていて、「公園」を書いてヌーヴォー・ロマンの方へ行ってしまう前のフィリップ・ソレルスの美しい恋愛小説「奇妙な孤独」が入っていた。普通の小説を書いても並はずれて巧いのだ。
ほかにカミュ「異邦人」やベケット「勝負の終り」、モーリス・ブランショ、クロード・シモン、ナタリー・サロート、ロブ=グリエ、イヨネスコ、レイモン・クノー、ビュトール、ジュネなど、とても良いアンソロジーだった。