アポリネール「一万一千本の鞭」

 先日、代々木画廊へ林アサコ絵画展を見に行ったら、アポリネールの「一万一千本の鞭」の挿絵として描かれたイラストが展示されていてこれが何ともセクシーだった。この本はまだ読んだことがなかったので、こんなにセクシーな内容なの? と作家に聞いた。そうだと言う。それはまずい!
 あわてて読んでみた。想像以上のはちゃめちゃエロティックだ。次は、その冒頭部分。

 セルビア副領事の門前に着くやいなや、モニイ(ヴィベスク公)は建物の正面に向かって、ながながと小便をし、それからベルを鳴らした。白い短いギリシャ式のスカートをはいたアルバニアの男が門を開けた。ヴィベスク公は、さっさと二階にあがった。副領事バンディ・フォルノスキーは客間にいて全裸だった。やわらかいソファの上に寝そべって、彼はかたく勃起していた。その側には、褐色のモンテネグロ娘のミラがいて、彼の睾丸をくすぐっていた。彼女も同様に裸であり、身をかがめているために、彼女のまるまるとした、褐色で、うぶ毛の生えた美しい尻が際立って見えたが、そのきめこまやかな肌はきゅっきゅっと音でも立てそうだった。二つに割れた尻に沿って褐色の毛の生えた裂け目があり、ボンボンのようにまるい禁断の穴を認めることができた。(飯島耕一 訳)

 もう30年以上も前にこの本を買っていた。が、読んでいなかった。娘が小学校高学年になった時、もし読まれたらまずいのではないかと隠したのだった。
 いまは成人になった娘に聞くと当時すでに読んでいたと言う。小学生に読ませる本ではなかった。ちなみに今回私が読んだのは図書館から借りたもので、詩人の飯島耕一が訳した河出文庫「一万一千の鞭」だが、詩人とは思えぬくらい訳文が悪い。日本語としてこなれていないのだ。以前買って持っていたのは須賀慣訳の角川文庫「一万一千本の鞭」だった。探したが見つからなかったのは、12年ほど前転居したときに手放してしまったのだろう。惜しいほどのものではないが。