新国立劇場演劇研修所研修生の高いレベル

 昨日紹介した井上ひさしの「リトル・ボーイ、ビッグ・タイフーン」に出演したのが新国立劇場演劇研修所第2期研修生14名、かれらは初めての国立の俳優養成所の研修生たちなのだ。
 この芝居を演出した栗山民也「演出家の仕事」(岩波新書)には次のように紹介されている。

 残念ながら現代の日本は、俳優養成の後進国です。もちろん、いろんな劇団では座内の養成機関を自主運営していますが、それは自分たちの劇団のための養成です。その劇団に必要な人材を育てていくことを目的にしているのです。
 新国立劇場では、2005年4月から演劇研修所としての俳優養成が開始されました。これは新人を中心に育てる3年間の養成機関で、1期15人の定員です。現行の授業料は年間18万円で、月6万円の奨学金があります。基本的に午前10時から午後6時までの全日制ですから、アルバイトは時間的にできないと同時に肉体的にかなりハードなカリキュラムが組まれています。公立としてははじめてのケースですし、今は若干、試験的なカリキュラムで実行しています。基本的に少なくとも3年間は基礎教育に徹することが、とにかく必要なのです。
 (中略)
 新国立劇場の演劇研修所ができる前のことですが、このスウェーデンの王立演劇学校の責任者から日本の現状について質問されたとき、
「まだ国立の研修機関がないのです」
と答えると、彼は呆然としたまま、何の皮肉でもなくこう言いました。
「では舞台にはどなたが立っていらっしゃるのですか!」

 新国立劇場演劇研修所第2期研修生14名の演技はすばらしかった。とても研修生といったレベルではないだろう。ずいぶん昔になるが新劇団体の協議会が合同で芝居をしたことがあった。演出は黒テント佐藤信だった。さまざまな劇団から役者が参加していた。すると発声や演技が皆ばらばらなのだ。過剰な身振りの者、淡々とした演技の者、それらは出身劇団の癖なのだろう。これも古い話になるが、1995年に石橋蓮司の主宰する第七病棟が、石橋蓮司作・演出で「人さらい」という芝居をしたとき、その年の演劇評論家が選ぶベスト・テンだったかで最高の評価を得たことがあった。私もこの芝居を見たが、石橋蓮司緑魔子の台詞回しがオーバーに聞こえて気になった。
 役者の養成所といえば俳優座養成所があり、鈴木忠夫の指導する鈴木メソッドや、亡くなった安倍公房が指導した特殊な養成方法もあった。俳優座スタニスラフスキー・システムだろうが、鈴木メソッドや安倍公房の方法はどうだったんだろう。スタニスラフスキー・システムといえば、マーロン・ブランドキャンディス・バーゲンロバート・デ・ニーロなどアメリカの俳優たちが学んだステラ・アドラー・アカデミーもこの方法を取り入れている。
 新国立劇場演劇研修所の方法は何なのだろう。この芝居で確認した研修生たちのレベルは高いものだった。今後が楽しみだ。