山本弘の作品解説(12)「愛子」


 山本弘「愛子」油彩、F10号(53cmx45.5cm)
 1973年制作。いつの個展で発表されたのか不明。山本弘が妻の愛子をモデルに描いたもののうち2番目に美しいもの。1番美しい作品は失われてしまった。画家自身によって破壊されて。
 私が初めて山本弘に会ったとき、その絵は唯一の部屋6畳間の壁の正面に飾ってあった。色彩がすばらしかった。愛妻をこんなにも美しく描いていた。それは彼の正直な気持ちなのだ。それなのに喧嘩などをして愛子さんが実家に逃げ帰ったりすると彼女の大事にしているものを破壊するのだ。それがたとえ自分の絵であっても。
 この絵はその失われた愛子像より数年あとに描かれた。これで見ると若い頃の愛子さんはきれいな人だったと改めて思う。初めて会ったとき私より7歳上の27歳だった。今でも面影はあるけれど、最近は酔っぱらっている愛子さんしか印象にないなあ。

 (山本愛子所蔵)