東京国立近代美術館の「わたしいまめまいしたわ」と常設展

 東京国立近代美術館へ行って来た。「わたしいまめまいしたわ」という回文のタイトルの「現代美術にみる自己と他者」(副題)という収蔵品展。
 はじめに画家たちの自画像が並んでいる。澤田知子の何百枚という証明書用写真、ついで河原温の日付絵画や電報、高松次郎の「この七つの文字」と書かれた絵画、宮嶋達男の発光ダイオード作品(これは東京都現代美術館所蔵)、日高理恵子の大きく精密な樹木のドローイング、須田一政の「風姿花伝」シリーズ(土俗の神々)、夭折の写真家牛腸茂雄の遺作「SELF AND OTHERS」の60枚の写真、ビル・ヴィオラの「追悼の五重奏」これは悲しみに打ちひしがれている5人の人物を撮影した映像作品、高速度撮影したものかほとんど動きがないが、気が付くと表情や姿勢が変わっている。そしてここで再び見られるとは思わなかった高嶺格のビデオ作品「God Bless America」。
 高嶺格のこのビデオは作家自身とおぼしい若者が1トンの粘土を女友達や友人とこねくりまわして、ゴリラや粘土のアニメーションを作っている。何日間にもわたっての制作風景をコマ落としで8分18秒の作品に仕立て上げたものだ。作家らしい若いカップルはアトリエで寝起きしている。粘土を加工し、食事や睡眠をとっている。瞬く間に夜が来て朝になる。セックスも3回くらい行ってそれも録画されている。ただコマ落としなので1回の行為が2秒とないだろう。BGMでGod Bless Americaが流れている。


 企画展のチケットで2階〜4階の常設展が見られる。この美術館と東京都現代美術館の常設展はお勧めだ。南薫造の「少女」はおだやかな優しい色彩だ。野見山暁治は最初この先生についている。その野見山の「ライ-レ-ローズ」も展示されている。野見山はパリで帰国する高田博厚の住んでいたアパートに入り、毎日窓から見える谷の向こう側の山を描き続ける。その絵から徐々に遠近感が消えていく。平面になっていくのだ。そして野見山は遠近法のない中国の水墨画を「発見」し、日本に帰国することになる。その遠近感がない「ライ-レ-ローズ」をここで見ることができる。
 今回小特集として国吉康雄がまとまって見られるし、日本の点描や、毎回数点ずつ展示されるアメリカからの「永久貸与」の戦争画も見られる。この美術館(近美と略称される)の目玉は実は「常設展」かも知れない。