趣味はオートバイだった

 34歳のときにオートバイの中型免許を取った。はじめ友人からヤマハSR400を借りて乗っていた。これは古いデザインのバイクで単気筒だった。乗りにくいが低速トルクが強く面白い乗り心地だ。でも自分のバイクを買いたいとカミさんに言うと、50ccの(中古)バイクがあるじゃないと反対された。それでせめてもとバイクのプラモデルを買ってきて組み立て始めた。それを伝え聞いた義父がかわいそうだとバイクの購入資金を出してくれた。早速ホンダXL200Rというオフロードバイクを買って乗った。通勤にも使い、帰路も真っ直ぐ帰れば10分なのに、湾岸の方を1時間以上走って帰ったりした。この頃の数年間はオートバイに夢中だった。オートバイに関する本もたくさん読んだ。その中に片岡義男の小説があった。「彼のオートバイ、彼女の島」ではなかったか。もうおぼろにしか思えていないが、片岡義男の小説は失恋しても葛藤がないのに驚いた。葛藤のないドラマってまるで伸びた蕎麦みたいだ。二度と食べる気にならなかった。
 オートバイはその後ロードスポーツのホンダCBX250RS、これも単気筒だ、それから同じくホンダVTZ250、これは2気筒、と乗り継いだ。時代はマルチ(多気筒エンジン)だが、自分には2気筒が一番合っていた。50ccを除いてみな4サイクルだった。2スト(サイクル)は好きじゃないのだ。バイクに乗ると汚れるからスーツは着ないでとカミさんに言われて、通勤は革ジャン、会社でブレザーに着替えていた。ついにスーツを着なければならなくなって20年乗ったバイクをやめた。
 20代で盆栽を趣味とし、30代でバイクとクラシック音楽、40代で現代美術、50代から始めた趣味はなかった。