三宅榛名のレクチャーコンサートを聴いたことがある。ずっと昔だ。講義をしながらピアノを弾いていた。講義の合間に三宅が飲み物を飲んだ。その時の仕草がある女性グラフィックデザイナーを思い出させた。2人とも手を頼りなくひらひらさせるのだ。とまどっている仕草だ。
そのデザイナーは頭が良くデザインも優れているのに人間関係が不器用だった。職場の女子社員は全員お昼を会議室でテレビを見ながら食べるのだが、彼女だけはウォークマンで音楽を聴いたり本を読んだりしながら自分の仕事机で食べていた。三宅榛名も人間関係は不器用なのだろう。
三宅榛名のCDを2枚持っていて大事にしている。特にその1枚は20年ほど前に買ったものだから、もう絶版だろう。三宅榛名+高橋悠治「いちめん菜の花」というアルバムだ。
三宅榛名「奈ポレオン応援歌」
ブレヒト「人間の努力は長続きしない」
坂本龍一「グラスホッパーズ」
三宅榛名「《楽しき農夫》変奏曲」
高橋悠治「パレスチナのこどもたちのかみさまへのてがみ」
三宅榛名「いちめん菜の花」
Trad「今日は会えない」
高橋悠治「さまよう風の痛み」
三宅榛名「北緯43度のタンゴ」
パンフレットは二つ折りの簡単なものだ。三宅榛名が書いている。
高橋悠治がレコードを一緒につくらないかとさそってくれたとき、この組合せでどんな具合の出来上がりになるかシカとは見当がつきかねるところがありました。
プログラミングの大半は悠治さんが決めたもので、「ハイ、この曲アレンジしたからね」と次々に楽譜を渡され、「うん、うん」とぼんやり返事をしているうち、何かこっちもちゃんと働かねばいけないような結果になったのがこのレコードでした。
(中略)
全9曲のうちわけは、ほとんどが三宅、高橋のオリジナル曲で、あとは坂本龍一さん、ブレヒトの《三文オペラ》からの歌が入っています。
”アタマ使って生きようたって、
アタマで飼えるのはシラミだけ”
と悠治さんは、ほとんどピッチのないごときユニークさでうたっています。
それぞれの即興演奏からなる部分もあり、〈さまよう風の痛み〉のように、書かれた曲に対し、もう1台のピアノがインプロヴィゼイションを重ねていくもの。また〈今日は会えない〉や〈タンゴ〉のように、曲の中間部が演奏者のアドリブにまかされているものなどがあります。
とりとめなくナツカしく、あてどなくキッパリと、たわいなく、しかしながら善意と悪意が入りみだれるというようなことが、このレコードの展望なのだろう、今は思っています。
この内、「今日は会えない」がとても好きだ。学校で習って子供の頃歌っていた気がするのだけれど。