「砂の上の植物群」、そしてキスのテクニック

 吉行淳之介の「砂の上の植物群」(新潮文庫)の主人公(伊木一郎)は推理小説を書こうと思っている。「その物語の主人公は、死病に罹った男と、傍を離れずに看病する若い妻である。」やがて死ぬ男は、男の死後いつか彼女を独占するはずの男に嫉妬を覚え、その男への復讐の方法を考える。

 その方法はーー。
 彼女を凶器にする以外にない。彼女の無意識の動作の一つが、相手の男の生命を奪う。
 一定の条件が与えられたときに、反射的に一定の動作を示す彼女の肉体の動きが男にとって致命的なものとなる。その動作を彼女の奥深くに染み込ませるために、瀕死の彼は、繰り返し一定の条件をつくり、彼女の躯をそれに反応させた。
 彼女が他日凶器に変化するための準備を終えて、彼は死ぬ。序章は終わり、そこから物語は本格的な段階に入るわけだ。
 しかし、そこで物語は中絶し、その先に彼は考えを進めることができなかった。

 自分が死んだ後まで妻や恋人を縛ろうと考えるのは間違いだ。むしろ彼女の幸福な人生を望むべきだろう。しかし、それとは別に自分の思い出を彼女に植え込むことを考えた。
 私は女性経験が少ないので、あまり偉そうなことは言えないが、キスの仕方は人によって違いがある。いや男とのキスは知らないので、女性とのキスに限っているが。一概に巧い下手とは言えないのは相性があるからだ。でも甘美的なキスがあるのも事実だろう。吸う強さ、唇の使い方、舌の動かし方、実際下手な女性も多いと思う。だから上手なキスの仕方を教えればいいのだ。将来の彼は誰がこんなに上手なキスを教えたのだろうと軽く嫉妬するに違いない。軽い嫉妬でいいのだ。