虫えいを歌った短歌

 本日の朝日新聞の「朝日歌壇」馬場あき子選のトップが次の短歌だ。

ヒョンノキと呼べる由来の虫こぶの笛を鳴らせり柞(いす)の木の下

 作者は長谷川安子さんという名古屋の方。選者の評は「ヒョンノキは、柞の木の別名。葉につく虫瘤を笛にするらしい。昔の子供の遊びが自然と密着していた頃のなつかしさがある」
 虫こぶとは虫瘤、虫えい、ゴール、gallである。この虫えいとは、湯川淳一・桝田長編著「日本原色虫えい図鑑」によれば、

日本原色虫えい図鑑
 えいgallとは、えい形成者gall maker、gall inducterから出されるなんらかの刺激に対して植物が組織分化の途上で反応し、その結果、植物の一部の細胞が異常に増殖したり、肥大したり、無核や巨大核、多核など核に異常が生じたり、あるいは、組織分化の過程が狂ったりすることによって引き起こされる、組織や器官の病理学的に異常な形状のことをいう。(中略)昆虫類によって形成されるものは昆虫えいinsect gallという。

 イスノキには10種類の虫えいが知られている。葉に作られる虫えいもあるが、大形のものは小枝に作られる種類なので、選者の「葉につく虫瘤」は「小枝につく虫瘤」ではないだろうか。