記憶から抜けていた

 オヤジの1周忌のとき、4つ上の従姉から「マサヨシは小さい頃家に来ると1日中本ばかり読んでいたに」と言われた。そうか、本を読んでいたのか。この母の実家へ行くのが好きだった。近所には2つ下の従弟も住んでいたし、祖父母にも可愛がられた。それが小学校2年生くらいを境にほとんど行かなくなった。どうしてだろう。その後も弟はずっと行っていたのに。
 理由が分かったのは30年以上経ってからだった。母の実家に行くのは母の里帰りのときだった。母についていったのだ。それを祖母が嫌ったのだという。私は祖母になついていたし、祖母は祖父と折り合いが悪かった。私が母の実家へ行くと話相手がいなくなり、寂しがったらしい。それで大きくなって母親について母の実家に行くことは恥ずかしいことだと吹き込んだのだという。そのことは全く記憶から消えていた。行きたい母の実家へなぜ自分は行かなくなったのだろうと長い間不思議に思っていた。禁止されたことだけがなぜ記憶から抜けてしまったのだろう。