毛はサービス

 二十歳の頃友人たちと詩を書いていた。いい詩を書く友人が3人いた。しかしビートニクな詩を書いていた三木良吉は絵の方に転じ、土方をしていたがその後どうしているか不明だ。G.A.は西友へ入社して言葉から離れた。J.K.も商業施設デザインの方に進み、わずかに店舗デザインに関するレポートを書いていた。
 彼らに比べて一歩劣る私だけが言葉を扱う仕事についた。地味なコピーライターだ。M化学から、毎年8月中国から九州に飛来して来る稲の害虫コブノメイガ防除のための殺虫剤のポスターを作るよう依頼された。ヴィジュアルの指定があって、水着の女の子を使うこと。殺虫剤と水着を結びつけなければならない。
 有名カメラマンを使い、「平凡パンチ」や「激写」に掲載されている人気モデルにビキニになってもらった。コピーは「一年中真夏だっていい」真夏の害虫コブノメイガによく効く殺虫剤だから、たとえ一年中真夏でコブノメイガが飛来してきても大丈夫。
 ポスターの色校正のとき、デザイナーから「毛が出てます」と言われた。小さなビキニのパンツからたった1本お腹に毛がはみ出している。どうしましょうか? 製版で消すのは簡単だ。いいよ、そのままにしておきな、サービスだ。たぶん誰も気づかないだろう。そう思っていたが、後日M化学の海外担当の方から、あの毛のせいでポスターが韓国の税関に没収されたと言われた。恐るべし、韓国税関。
 同じM化学の水田用除草剤の雑誌広告のコピー「使った田圃は見て分かる」は、「腐った魚は目で分かる」を少し変えたのだった。