泣かない子だった

 小学校4年生の時可愛がっていた猫が死んだ。その日は日曜日だったのか1日中泣いて過ごした。泣き続けなければ猫に悪い気がして、何度も何度も泣いた。それを最後にもう泣かない子になった。どんなことがあっても泣かなかった。小学校6年の頃ではなかったか、お袋がきつい人で、こんなに怒っても泣かないと言ってさらに叩かれたのを憶えている。そのまま、涙を流さない人間になった。
 それが24歳の頃、再び涙が出た。ヴェトコンの兵士の死体のポケットに故郷の母親や恋人からの手紙が入っていたという記事を新聞で読んだ時だった。14年ぶりだった。
 翌年、祖母危篤との連絡があって実家へ帰った。もう意識がなくなっている祖母の顔をのぞき込んでいたら思わず嗚咽が漏れてしまった。私はおばあちゃん子だったのだ。離れたところで嗚咽を聞きとがめたお袋が言った。「マサヨシ、笑うな!」
 お袋にとって、私が泣くなんて考えられもしないことだったのだろう。