署名原稿は直さない

 あるメーカーのPR誌に農林水産省のお役人から原稿を書いてもらった。私の部下の編集者が、文中分かりにくい箇所があるので直したいと許可を求めてきた。二つの理由で駄目だと言った。
 まず署名原稿であること。普通署名原稿に手は入れないし、入れるときは最低限著者の了解を求める。もう一つの理由が肝腎で、お役人が立場上明解には書きにくいことをわざと曖昧に書いているのが分かったからだ。それが部下には分からなかったらしく、断定的な表現に書き直そうとしたのだ。大きな問題になるところだった。
 コネを使って入社してきた彼は、国立大学出身にもかかわらず出来が良いとはいいかねる部下だった。履歴書に名刺判の顔写真を切り取らないでそのまま貼ってきたのを憶えている。